コラム「記録をつくる 記録をのこす」

沖縄戦と記録焼失

 沖縄ほど記録を大切にしなければならない地は他にありません。

 沖縄は琉球王国という一時代を築き、戦前の国宝建造物の数は京都、奈良に次いで全国で三番目を誇る文化遺産にあふれる地でした。しかし、第二次世界大戦において「最後の戦闘地」となった結果、日米の激しい地上戦が繰り広げられ、その長い歴史や独特の風土が育んできた古い街並みや文化財をはじめ古文書などの貴重な記録遺産の多くを焼失してしまいます。特に戦闘の激しかった沖縄本島では、戦前の県庁や市町村にあった戸籍簿や地籍簿などの公文書も失われました。
 よく「記録なくして、歴史なし」と言われますが、沖縄戦で失われた記録は二度と取り戻すことはできず、沖縄は近世から近代にかけての貴重な「歴史」を失ってしまっているのです。

 このような記録の消失は、私たちの生活にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
 各地の役場では戦後すぐに戸籍や地籍の復元に取り組みました。しかし、通常ならそれらの記録の内容を詳細に把握しているはずの戸主の多くが戦死しており、戦後の社会の混乱も相まって復元作業は難航しました。その結果、作成された戸籍は、死亡者や不在者の記載漏れ、現住する生存者の身分事項欄の空白、年齢・性別の不実記載などがあり、身分登録からは程遠いものとなってしまいました。また、地籍についても、当時の測量器具の不備、測量技術の拙劣も重なって、出来上がった公図、公簿は土地の位置や境界が不明の場所が多く、極めて信憑性の低いものとなりました。戦後75年以上経った今でも所有者不明あるいは境界線不明などの理由で土地開発が遅れたり、親族間の土地相続問題が起こったりしているのは、沖縄戦における記録の消失によるところが大きいのです。

 記録は残っていて当たり前だと思われるかもしれませんが、実はそうではありません。戦災だけでなく、火災や災害により一瞬にして失われる可能性があります。記録の重要性を今一度かみしめ、適正な管理、保存に努めていきましょう。

破壊された公文書を見る米海兵隊員 1945年4月11日[87-32-1]